こんにちは、薬剤師のぱん子です。
胃薬ってたくさん種類があってどれがいいかわかりませんよね。わからないからとりあえず有名な薬でいいか、と思っても、同じ名前の薬にもシリーズが色々あるし、本当にどれがいいの?となるのが胃薬です。
今回は私が薬剤師として、どんなことを考えて市販の胃薬を選ぶのか紹介します。胃薬を選ぶときの参考になれば幸いです。
※この記事では複数の市販薬が紹介されていますが、実際に購入する場合は、薬の最新の説明書あるいは添付文書を読み、注意事項をよく確認の上購入をご検討ください。
胃薬選びのポイント①症状
胃の不調について、具体的にどんな症状があるのか考えます。市販の胃薬はあくまでもレスキュー的な立ち位置です。症状がひどい場合、症状が続く場合は必ず受診することが前提です。また、胃腸症状だけでなく全身症状(発熱、動機、息切れ、意識障害など)を伴う場合も、病院で診てもらった方がいいです。胃が悪いと思ってたら本当の原因は心臓だったということも実際よくあります。発見が遅れると命に関わります。
胃もたれや食欲不振がある場合は胃の働きを高める健胃薬や、消化酵素が含まれる胃薬がおすすめです。
胃痛、胸やけ、むかつきがある場合は胃酸の分泌をおさえる薬や、胃酸を中和する制酸剤が含まれるものも選択肢の一つ。
ただ、胃酸は消化や殺菌に重要な役割を果たしているので、胃酸を抑える薬は安易に選ぶべきではないと私は考えています。また、胃酸を抑えることによって重大な疾患の発見が遅れる可能性もあるので、連用はしないようにします。しつこいようですが、症状が続く場合は必ず受診することです。
急に胃痛・腹痛がきて、キリキリしたりキュウっとなったりする場合は抗コリン成分が含まれる胃薬がよく効くことが多いです。
胃痛に対して解熱鎮痛剤を使うのは逆効果になる場合があります。ロキソニンやイブのような痛み止めは避けましょう。(生理痛による腹痛であれば使えます)
便秘を伴うのか、はたまた下痢もあるのか、あるいは便秘になったり下痢になったりするのか、というのも薬を選ぶ時の判断の助けになります。
便秘を伴う場合は便秘を改善することで、腹部膨満感やむかつきが緩和されるかもしれません。便秘薬も選択肢にはいってきます。
下痢がある場合は抗コリン作用のある成分や整腸剤、漢方薬、生薬系の薬がおすすめです。
整腸剤は腸の調子を整えることで便秘にも下痢にも効果的です。しかも副作用が少ない。胃薬と整腸剤を併用するのもありです。
便秘と下痢を繰り返すタイプにも整腸剤はおすすめです。それともう一つ。トリメブチンという成分もおすすめ。下痢のときは消化管の運動を抑え、便秘のときは消化管の運動を促進するバランサー的な薬です。
胃薬選びのポイント②原因
胃の不調の原因を推察します。原因に対する対策をすることで胃の不調が改善できるかもしれません。例えば、胃腸症状がめまいに伴うものであれば、胃腸薬ではなくめまいの薬を選びます。発熱が伴う場合は感染症による胃腸症状の可能性もあります。何が原因で症状が起きているのかを考えて、症状がひどい場合は早めに受診します。
胃酸の出過ぎでしょうか?胃が弱っている?加齢によるものでしょうか?胃酸の出過ぎであれば胃酸の分泌を抑える薬や胃酸を中和する制酸剤が選択肢に入ります。胃が弱っている場合は胃の働きを高める健胃薬や、胃の粘膜を保護する薬がおすすめです。加齢による症状なら、消化酵素の入った薬がおすすめです。
食べ過ぎ、飲み過ぎではありませんか。消化が悪く、胃もたれしている場合は、消化酵素やウルソデオキシコール酸が含まれる胃薬がおすすめです。アルコールの刺激で胃が痛い場合は胃酸分泌を抑える薬や制酸剤も考慮します。二日酔いで吐き気がある場合は漢方薬の五苓散もおすすめです。
疲れが溜まっていませんか。がんばりすぎてはいませんか。蓄積した疲労とストレスが胃の不調としてあらわれることもあります。風邪などで体力を消耗した際にも胃の不調があらわれることも。そういう気力・体力の消耗がある場合には漢方薬の補中益気湯が合っているかもしれません。
原因はよくわからないけど、胃腸の調子がなんとなく悪い場合には、とりあえず漢方薬の六君子湯を試して様子を見てみてもいいかもしれません。それで、もし合わなければ(症状が改善されなければ)途中でやめればいいです。
胃薬選びのポイント③抗コリン成分
薬は副作用がつきものです。まったく副作用がない薬はありません。ですが、副作用の頻度が比較的高いか低いかというのはあります。
抗コリン作用のある成分はさしこむような胃痛、腹痛にはよく効きますが、その反面副作用も多いです。
抗コリン作用のある成分の例
・ロートエキス
・ブチルスコポラミン臭化物
・チキジウム臭化物
車を運転する、あるいは機械の操作、高所での作業などがある方は抗コリン成分の入った胃薬は避けましょう。副作用として目のかすみや急に眩しく感じるなど起こる可能性があり、危ないためです。
抗コリン薬によって起こりうる副作用は本当に様々あります。特に高齢になると若い頃よりも代謝が落ちるということもあり、薬の副作用も起こりやすくなります。そのため、高齢の方には抗コリン薬の入った胃薬をおすすめしません。
抗コリン薬の副作用の例
・認知機能への影響、記憶障害
・筋力低下、転倒のリスク
・便秘
・口腔乾燥
・眼圧上昇、視覚異常
・排尿障害
・心拍数増加
胃薬選びのポイント④その他
- 妊娠・授乳の有無
- 持病・通院の有無、病歴
- 併用薬の有無
- アレルギー、副作用歴
これらの情報は薬を選択する上で特に重要なポイントです。
妊娠中であれば基本的には市販薬をおすすめしません。通院している産婦人科で相談するべきです。
授乳中の場合、薬が母乳へ移行することを考慮し、赤ちゃんへの影響が少ない成分のものを選びます。また、抗コリン作用がある成分は母乳が出にくくなる可能性があるため避けます。
持病があって通院中の方にも基本的には市販薬をおすすめしません。治療の妨げになってはいけないので、かかりつけの病院で相談した方がいいです。
病歴で特に確認したいのは、緑内障(あるいは眼圧が高い)、前立腺肥大(あるいは尿が出にくい)、高血圧、心疾患です。抗コリン作用のある成分は、緑内障、前立腺肥大による排尿障害、心拍数を増加させる可能性があるため服用できません。〇〇ナトリウムなどの制酸剤は血圧が上がる可能性があるのでなるべく避けた方が無難です。
併用薬がある場合は、飲み合わせの悪い成分を避けます。例えば胃薬によく入っている〇〇マグネシウム、××アルミニウム、△△カルシウムなどの成分は多くの薬の吸収を低下させ、薬の効果が弱くなる可能性があります。また、スクラルファートやアルジオキサといった成分にはアルミニウムが含まれており、薬の吸収に影響します。
併用薬と同じ薬効を持つ同じ系統の成分も避ける必要があります。同じ効果が重なると副作用のリスクが上がるためです。
併用薬がある場合には、胃薬の成分一つ一つに注意して選ぶ必要があります。よくわからない場合はかかりつけ薬剤師へ相談することをおすすめします。かかりつけ薬剤師であれば、併用薬に関する情報がすぐにわかるかと思います。
アレルギー・副作用歴は安全に薬を服用するためにとても大事です。今まで飲んだ薬で合わなかった薬(例えば、ある薬を飲んだら全身に蕁麻疹が出た、など。)は絶対に避けなければなりません。また、違う成分の薬でも薬の構造が似ているとアレルギー反応が起こる場合があるので注意が必要です。
薬剤師おすすめの市販薬①食欲不振
食欲低下で悩んでいる人におすすめしたいのが、漢方薬の六君子湯です。
消化機能を高めるだけでなく、食欲を増加させる作用があります。
薬剤師おすすめの市販薬②消化不良
食べ過ぎ、飲み過ぎによる消化不良にもいいですし、食べる量は以前と変わらないのに食後に胃がもたれる、といった年齢による症状にもおすすめの市販薬を紹介します。
◆ハイウルソ顆粒
この薬の魅力はなんといっても高容量のウルソデオキシコール酸が配合されていること!ウルソデオキシコール酸には胆汁の分泌を促し、脂肪の消化を助ける働きがあります。脂っこいもので胃がもたれるという方にぴったりです。
似たような製品で「ハイウルソ細粒T」というのもありますが、「ハイウルソ顆粒」の方が私はおすすめです。理由はハイウルソ顆粒の方が配合されている成分がシンプルだから。その方が幅広い世代の人におすすめしやすいです。特に、ハイウルソ細粒Tにはカンゾウが入っているので、偽アルドステロン症などの副作用に注意が必要ですが、ハイウルソ顆粒にはカンゾウは入っていません。生薬のカンゾウには炎症を抑える作用があり、幅広い薬に配合されていることが多いので、重複投与に気をつけるべき代表成分です。いい成分ですが、過量服用すると副作用のリスクが高くなります。
◆パンシロンアクティブ55
◆パンシロンアクティブ55ST
パンシロンアクティブ55とパンシロンアクティブSTの違いは粉か錠かの違いです。STは錠剤で15歳未満は服用できないのに対し、粉タイプは3歳からでも服用できます。
パンシロンはいろんな種類が販売されています。パンシロンG、パンシロン01、パンシロンキュアなどいろいろありますが、同じシリーズでも配合されている成分がまったく別物なので注意!パンシロンアクティブ55は消化酵素がバランスよく配合されているのが特徴。炭水化物、タンパク質、脂質それぞれに対応できる消化酵素が入っています。
消化酵素系の薬って、けっこう飲みにくいのが多いのですが、パンシロンアクティブ55STであれば小型の粒状なので、かなり飲みやすいかと思います。
スーッとした飲み心地で、効いてるかんじを実感したい方はパンシロンアクティブ55を試してみてください。より副作用が少ない方がいい方はハイウルソ顆粒の方がおすすめです。
薬剤師おすすめの市販薬③急な胃痛、腹痛(さしこみ痛)
◆ブスコパンA
有効成分としてブチルスコポラミン臭化物が含まれます。
◆太田胃散ペイノン錠
有効成分としてチキジウム臭化物が含まれています。
どちらを選べばいいのか?
まず、両方に共通することとして
- 15歳未満の方は服用できない
- 運転、機械の操作をしてはいけない
- 5〜6回服用しても良くならない場合は医療機関を受診
- どちらも抗コリン薬である
そうです。どちらも抗コリン薬。副作用が多い薬って思ってもらうといいです。(市販薬は長期間服用するものではありませんが、)長期的な服用による副作用のリスクは同じくらいあります。だからわたしは高齢の方にこの2つの薬はおすすめしません。
それを踏まえた上でブスコパンAと太田胃散ペイノン錠には説明書の注意事項の記載に違いがあります。
どういうことかというと、ペイノンは緑内障、前立腺肥大、心臓病、麻痺性イレウス(腸閉塞)、甲状腺機能亢進症、不整脈、潰瘍性大腸炎の方は使ってはいけないことが説明書に明記されています。
しかし一方、ブスコパンAはそういった方は使ってはいけないとは書いていません。ただし、排尿困難、心臓病、緑内障の方は医師または薬剤師に相談することと書いてあります。
だからといって、ブスコパンAの方が副作用が少なくて安全な薬だというわけではなく、リスクは同じくらいあります。
効き目については、ペイノンの方が上かと思います。
ペイノンの成分チキジウム臭化物は医療用医薬品があります。先発医薬品チアトンカプセル(成分:チキジウム臭化物)の医薬品インタビューフォームを参照すると、チアトンカプセルは「消化器系疾患に基づく腹痛を主訴とした患者を対象としたブチルスコポラミン臭化物との二重盲検比較試験において優位に優れた成績を示した」とあります。
薬剤師おすすめの市販薬④ストレス胃
◆大正漢方胃腸薬
安中散と芍薬甘草湯という2種類の漢方薬の組み合わされた商品です。安中散は、冷えやストレスの影響で胃腸の調子が悪くなりがちな方に合う胃腸の機能を高めるような漢方薬です。芍薬甘草湯は、こむら返りの薬だと思っている人が多いですが、腸管の過剰な運動による痛みにも効きます。
似た商品で大正胃腸薬Kというのも販売されています。大正胃腸薬Kは大正漢方胃腸薬よりも芍薬甘草湯エキスの量が少しだけ多くなっています。量が多い方がいいともかぎりません。量が多い方が効きがいいですが、副作用の心配も高まります。
◆大田漢方胃腸薬II〈錠剤〉
漢方薬の安中散に茯苓を加えた薬です。大正漢方胃腸薬よりも副作用の心配が少なく、高齢の方にも使いやすいです。
薬剤師おすすめの市販薬⑤胃が弱い
胃が弱い方、胃が一時的に弱っている方には、胃の粘膜を保護したり、傷ついた胃粘膜を修復する作用のある薬がおすすめです。
◆セルベール
有効成分として配合されているテプレノンには胃の粘液を増やして胃の粘膜を保護する作用があります。効き目はマイルドですが、副作用が少なく使用しやすいです。空腹時の服用で効果が落ちるので、「食後に服用」と説明書に記載があります。
◆スクラート胃腸薬S散剤
◆スクラート胃腸薬S錠剤
スクラート胃腸薬とスクラート胃腸薬Sはまったく別の成分の薬なので注意。(市販薬ってほとんど名前が同じなのに中身の成分が違うってことが本当に多くてややこしいのです。)
ここで紹介したいのは、スクラート胃腸薬Sの方です。散剤か錠剤があります。
スクラート胃腸薬Sはいろいろな成分を含む配合剤。中でも注目したい成分はスクラルファート水和物という胃粘膜保護成分です。荒れた胃の粘膜に貼り付いて守り、修復します。他にも、制酸剤、消化酵素、数種類の健胃生薬が含まれています。
ただ、スクラルファート水和物はアルミニウムが含まれる成分のため、この薬が使えない人もいます。(例えば透析を受けている方)
薬剤師おすすめの市販薬⑥胸焼け
胸焼けの原因のほとんどは胃酸の逆流です。胃酸過多の状態です。その場合は、胃酸を中和する制酸剤、あるいは胃酸の分泌を抑える薬がおすすめです。
◆太田胃散
胃酸を中和する制酸剤が含まれているため、即効性が期待できます。
◆ガスター10
より強い効果を求める方は胃酸の分泌を抑える成分が入ったガスター10も選択肢の一つ。ただし、一時的な使用にとどめるべき薬です。なぜなら症状がなくなった=治ったというわけではないから。本当は重大な疾患があるのに、薬が効くことで発見が遅れる可能性があります。だから、薬を続けないといけないくらいひどい症状の場合は必ず医療機関を受診します。
薬剤師おすすめの市販薬⑦吐き気、むかつき
残念ながら、吐き気に直接効くような薬は市販では手に入りません。
市販の乗り物酔いの薬は、胃腸症状にともなう吐き気に効く薬ではありません。
市販薬で吐き気やむかつきに対処するとしたら、まず候補に入るのは漢方薬です。
◆五苓散
◆半夏瀉心湯
五苓散は利水作用があり、体の水の巡りをよくする作用があります。胃腸の水を正常に巡らせることによって吐き気が和らぐことが期待できます。五苓散は二日酔いにもよく使われるような漢方薬です。
半夏瀉心湯は胃腸の働きをよくする漢方薬です。胃腸が弱っていて、下痢や消化不良、吐き気、などがある場合に使います。舌に黄白い舌苔があるときに合う傾向があります。
もっと即効性が欲しい!という方には、漢方薬以外の選択肢もあります。
◆サクロンQ
局所麻酔作用のある成分が入っていて、「ムカムカ、吐き気、胃痛」といった症状を緩和します。即効性は期待できます。が、一時的に症状を隠しているだけであって、治っているわけではありません。ずっと使うのはよくないです。薬の説明書にも、「連用してはいけない」と明記されています。
◆強ミヤリサン
吐き気の薬ではありませんが、胃腸の調子が悪い場合は整腸剤を選択するのも一つ。